インタビュー

今改めて考えたい性教育 ー子どもたちに伝えたい大切なことー

最近の日本では新型コロナウィルスの影響で学校が休校となる中、中高生の妊娠相談件数が急増し、大手ベビーシッターマッチングプラットフォームに登録していたシッターが預かり中の子どもにわいせつな行為を行い逮捕されるなど、「性」に関するニュースが相次ぎました。大切な子どもたちを守るため、今改めて性教育に対する意識が高まっています。
そこで今回はご自身も小学生以下のお子さんを育てながら性教育インストラクターとして活躍されているお2人にお話しを伺うことにしました。

真間 亜也子(まま あやこ)さん
在星歴4年半。日本企業フルリモート・フルタイム勤務。
夫と娘さんお2人(10歳・6歳)の4人家族。

ライ 聡美(らい さとみ)さん
在星歴10年。フリーランス。
シンガポール人の夫と娘さん(4歳)、息子さん(2歳)の4人家族。

性教育の現状

 

-日本における性教育の現状について教えてください。

 

真間:文部科学省が定める学習指導要領では小学4年生の保健体育で1~3時間程度、性教育を行うことになっていますが、「妊娠に至る経緯は取り扱わない」と定められています。意味を取りづらいのですが、要するに「性交」を教えないということ。

そのため文部科学省の指導に従うと、性交を知らないと説明できないリスク(意図しない妊娠や性行為による感染症のリスクなど)は取り扱うことができないというのが現状です。実際に保健体育を担当している先生が、自己判断でこうした内容を子どもたちに教えようとすれば処罰の対象になる可能性もあります。

 

ライ:ただ、県の教育委員会として独自の指導内容を定め、性教育に力を入れてきた県もあります。1990年代、10代の人工妊娠中絶率が全国平均よりも高かった秋田県では、産婦人科の先生たちが性教育の必要性を訴え、指導内容を変えていったそうです。その結果、2011年には秋田県の人工妊娠中絶率は3分の1程度にまで減少し、全国平均を下回りました。現在では秋田県の取り組みについて学ぶため、他県から視察も行われているそうです。

 

真間:現在は学習指導要領がネックとなって学校側で性教育の充実を図るのは難しい状況にありますが、性教育を充実させることに反対する保護者がいるというのも事実です。こうした保護者の方々は学校で性教育が進むと、家庭で子どもから性に関する質問をされたときの対応に困るとも考えているようです。

一方、性犯罪に対して高い危機意識を持っている保護者の方々はNPO法人が開催している講座に参加したり、You Tubeを活用して子どもに性教育を行ったり、学校以外の選択肢を上手く活用して性教育の充実を図っています。ここ2、3年で性教育をめぐる環境は大きく変化しているという印象があります。

 

ライ:もちろん学校で充実した性教育が行われることが理想ですが、今は学校が消極的であるため、家庭で積極的に性教育を行っていく必要があります。区や市が性教育に関する講座を開催している場合もありますので、ぜひそうした情報にアンテナを張るようにしてみてください。

最終的には、家庭で子どもが3、4歳の頃から性教育を始め、学校でも充実した性教育が行われ、地域でも近所のおじさんおばさんが「他人にパンツを見せたりしちゃだめだよ」と注意をしてくれる、そんな社会が実現できれば良いなと思います。

 

 

-海外ではどのように性教育が行われているのでしょうか?

 

真間:海外ではユネスコが世界保健機関(WHO)などと共に作成した「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」を基に、5歳頃から性教育が行われている国が多くあります。海外での性教育は、家族には様々な形があるということ、人はそれぞれユニークでそれぞれの価値があるということ、生物科学的な生殖の仕組みについてなど、幅広い観点で構成されています。子どもたちを性犯罪の被害から守るという点では、プライベートパーツを正確に教え、「あなたの体はあなた自身の大切なもの」という概念を伝えることから始まります。

 

ライ:ヨーロッパやアメリカでは男女平等や人権、人の多様性に対する理解が浸透していて、子どもも一人の人間として性について知る権利があるという認識があります。子どもが性被害に遭いやすいという共通の認識もあり、保育園や幼稚園で性教育が必修という国もあります。日本に比べて家庭環境が複雑なことも背景にあるかもしれません。

日本でも最近は複雑な家庭環境で育つ子どもが増えていますので、やはり子どもに早い段階で性教育を行う必要性を感じています。

家庭における性教育

 

-海外では防犯の観点からも性教育を行っているとのことでしたが、自分の子どもを性犯罪の被害者・加害者にしないため、家庭で出来ることを教えてください。

 

真間:まずはプライベートパーツについて徹底的に教えることが大切です。プライベートパーツは「人に見せたり触らせたりするものではない」ということが分かれば、他人に触られそうになった時に逃げることができたり、むやみに他人の体を触ろうとすることもなくなると思います。

また、性犯罪者は「お母さんに言ったら悲しむから内緒にしておこうね。」「お母さんに言ったら怒られるよ。」などと、巧みな言葉で子どもが被害に遭ったことを伝えられない状況を作り出してしまいます。万一子どもが性犯罪の被害に遭った時にも、1人で抱え込んでしまわないよう、家庭で日常的に性について話ができる環境を整えておく必要があります。

 

ライ:真間さんもおっしゃっているように、子どもが万一性犯罪の被害に遭ったときでも、「お母さんが悲しむから言えない。」と考えてしまうことがないよう、子どもと何でも話し合える関係を作っておくことが大切だと思います。子どもには何かあったときには解決してくれる信頼できる大人がいるんだよと繰り返し伝えることが大切だと思います。

 

-子どもと性について話すことにためらいがあるお母さんへアドバイスをお願いします。

 

真間:お母さんには、まず「性教育」と「性産業」が別物であり、性教育は「いやらしいこと」を伝えるものではなく、人として健全に健康に生きる知恵を色々な方向から伝えるものであるということを理解しておいて欲しいと思います。子どもを性犯罪の被害から守るためにも、性について話しをすることは大切です。

どのように話しをして良いかわからないという場合は、お子さんがお風呂上りに裸で歩いていたら、「〇〇ちゃんのプライベートパーツが見えているけど良いのかな~?お母さん触っちゃうぞ~。」と日常の遊びとして声をかけてみたり、生理中にあえて一緒にお風呂に入って、「女の人は体に赤ちゃんを育てるためのお部屋があるんだよ。」と体の作りを科学的に話してみてはどうでしょうか?何を聞かれてもごまかさないという覚悟を持って、性をテーマにした絵本を読んであげるというのも良いですね。

 

ライ:子どもが生まれた時の写真を見ながら話しをしてみるというのもお勧めです。「あなたが生まれたときママはとっても嬉しかったんだよ。」というところから会話を始めてみてください。

「子どもに性教育をしなければ」と肩に力が入ってしまうとお母さんの緊張が子どもにも伝わってしまうので、プライベートパーツを自分の手で隠すゲームをする、お風呂に入ったときに大人と子どもの体の違いについて話しをしてみるなど、出来るところから少しずつ始めてみてください。

性教育インストラクターになった経緯

 

-お2人が性教育について学ぼうと思ったきっかけは何ですか?

 

真間:私には娘が2人いるのですが、「女性だから」という理由で自分のチャンスや可能性をあきらめることなく、自分が望む人生を自由に生きて欲しいと考えています。そのためには「自分が女性であるということでどのような犯罪に巻き込まれる可能性があるのか」といった、性に関するリスクをきちんと認識しておく必要があると感じていました。

娘たちが2、3歳の頃から家庭で絵本を使い性教育は行っていましたが、セックスについてはどの段階で、どんな風に教えれば良いか悩んでいたことから、性教育について学んでみたいと思うようになりました。

 

ライ:私の場合はきっかけとなった出来事がいくつかあります。ある時、プールで遊んだ後に夫が子どもをプールサイドで着替えさせようとしたことがありました。私は子どもを外で着替えさせることに抵抗があり、自宅に帰ってから着替えさせようと考えていたので夫の行動に違和感を覚えたのですが、当時はその違和感を上手く説明することができませんでした。

また別の時には、子どもたちがお風呂でおまたを触ってキャッキャッと笑っているのを見てドキッとしたのですが、どう止めれば良いか分かりませんでした。シンガポールに来てからは一年中暑いこともあってか外で上半身裸の男性を見かけることがあり、日本に居た時よりも裸に対する男女の意識の違いを感じるようにもなっていました。こうした事がきっかけで性教育をもっと深く知りたい、伝えていきたいと思い、講座を見つけて申込みました。

 

-性教育に対して「恥ずかしさ」や「後ろめたさ」を感じる人も多いと思うのですが、インストラクターとして働くことに対し、ご家族からはどのような反応がありましたか?

 

真間:夫へはインストラクターとして活動をしていくために費用がかかると分かった時点で説明をしたのですが、最初は「性教育」を取り扱うことに驚いたようです。ただ、その時タイミング良く、私が所属している「パンツの教室」が新聞Japan Timesで取り上げられていたので、記事を読んでもらい活動内容について理解を得ることができました。最近では、私と子どもが性について日常会話として当たり前に話すことできる関係にあるのを見て、性教育の必要性を理解してくれたようです。

子どもに関しては、私が「先生」として活躍していることが嬉しいようで、しばらく活動がないと寂しそうにするほどです。最近では私がインストラクターとして教えている内容も分かる年齢になり、性について親子で話すことができない家庭があり、そうした家庭のためにママの仕事が必要なのだと理解してくれています。

 

 

ライ:私は性教育インストラクターとして活動することに対し、夫からの反対は特にありませんでした。インストラクターになるための講座を通して、性教育に対して抱いていた恥ずかしさや不安がなくなり、夫とも性に関する話題を気負わず日常的にできるようになったことを嬉しく感じています。最近では、私が子どもたちに伝えていたプライベートパーツの話しを、夫が子どもに話してくれているのを聞き、夫も性教育の必要性を理解してくれたのだと実感しました。

私の子どもたちは幼いこともあり、インストラクターとして教えている内容全てを分かっている訳ではないと思いますが、まだ性に対するフィルターもないので、「ママお仕事頑張ってね!」と私の活動を素直に応援してくれています。

性教育を通して学んで欲しいこと

 

-お2人が性教育を通して子どもに学んで欲しいことは何ですか?

 

真間:「包括的性教育」という言葉があるのですが、子どもたちには性教育をとおして命の始まり、人種差別、人間の尊厳など、幅広い知識を身に付けて欲しいと思います。また、女の子は妊娠・出産に適齢期があることなど、人生設計を行う上で必要な知識を身に付けて、自分が望む人生を自由に生きて欲しい、周りの人の人生も尊重できる人になって欲しいと思います。

 

ライ:性教育というと「うちは男の子だから大丈夫。」という方もいらっしゃいますが、13歳以下の性犯罪には性差がないという調査結果もあり、男の子・女の子どちらにも必要な知識です。子どもが性教育を学ぶと、相手を思いやる心が育ちます。子どもはお母さんのことをいつでも元気だと思いがちですが、女性にはバイオリズムがあり、生理で体が辛い時だってあります。子どもがそうした体のしくみについて知り、お母さんを含めた女性や他人を大切にする気持ちを育んでくれたら嬉しいですよね。

インタビューを終えて

 

私自身7歳の息子と4歳の娘を持つ母親ですが、これまでは「子どもたちは成長すれば自然と性について学び理解していくだろう」と考えていました。今回のインタビューでは、性教育に対するネガティブなイメージを払拭するとともに、家庭で性教育を行う必要性を改めて認識することができました。

インタビューを終えた当日、お風呂に入る前に裸で歩き回っている息子と娘に、早速プライベートパーツについて話しをしてみました。子どもたちの反応は「ふーん。そうなんだ。」といった感じでしたが、大切なのは「繰り返し伝えていくこと」。これからは子どもと日常会話として性について話しができる環境づくりを心がけていきたいと思います。

 

参照URL

 

Profile

真間 亜也子
日本ではリース会社に勤務。来星後シンガポール法人の日系メーカーで勤務する傍ら2018年に「パンツの教室」を受講。現在は日本企業のフルリモート・フルタイム社員として働きながら、夜間や土日の時間を活用してオンラインにて講座を開催している。1年前からはヘルパーさんを雇い、「~すべき」という考えを手放すことで仕事と家庭の両立を図っている。

 

ライ 聡美
日本ではオフィス家具メーカーに勤務。シンガポール支社に駐在員として来星し、2人目の出産を機に退職。2019年から「パンツの教室」講師として活動を開始。サーキットブレーカー中は一時活動を休止していたが、7月より対面・オンライン形式での講座を再開。仕事と家庭を両立するため、家事については夫や子どもにサポートしてもらい、家族で協力しながら取り組むよう心がけている。

Written by Naoko Udagawa
Cooperated with Naomi Tanno

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