インタビュー

家族の理解と柔軟さで切り開く。ママ駐在員という働き方 (座談会レポート)

2021年5月9日、はたママではオンライン座談会を開催しました。

まだ数は少ないけれど、キャリアの選択のひとつとして、駐在員になることを選ぶ働くママ達がいます。未就学・小学生の子どものいるママがシンガポール駐在員だったら、どんな働き方でどんな生活なのでしょうか。

現在、ご自身が駐在員としてシンガポールで働くママお二人をゲストに、仕事観や家族観をお伺いしました。

自分のキャリアで海外に出て仕事をしたい、負荷の高い仕事にチャレンジし続けたい、そんな思いを持つ方々に、ぜひ参考にして頂きたいと思います。

 

対談ゲスト

Aさん総合職として商社に新卒入社。海外営業で東南アジアに出張する業務を約10年続けたのち、出産、半年の育休を経て現場復帰。子供が1歳半の時シンガポール駐在の辞令を受け、配偶者海外転勤帯同休職制度を利用した夫とともに家族で来星。現在駐在3年目。

 

Bさん:商社の管理部門に総合職として勤務。2019年にシンガポール駐在の辞令を受け、夫は日本と行き来する計画で受諾。コロナの影響で来星時期がずれ、夫は日本に留まるなか、2020年夏に、小学生の息子2人とご自身のお母様と来星、9か月が経過。

 

ご自身のシンガポール駐在が決まった時、どんな気持ちでしたか。また、家族でどのように話し合いましたか?

<Aさん: 過去には諦めていた貴重なチャンス。長い話し合いの末、夫が休職帯同を決意>

勤務先が商社のため、キャリアの中で駐在を経験するケースが多く、20代から30代前半で一度目の駐在を経験する人が多くいます。

私もこの年代の頃、夫と駐在について相談を重ねましたが、共働き夫婦の私たちにとっては、単身・帯同のどちらをとっても、どちらかのキャリアや家庭を犠牲にする選択となるため同意にいたらず、結婚後は駐在は希望せず、必要に応じて海外出張する形で国内勤務を続けました。

後輩が駐在していくのを見送ったり、初駐在の平均年齢を過ぎていく焦りでモヤモヤを感じることもありました。

その後、子供が生まれ、東京での共働き育児生活がどれだけ大変か身をもって経験しました。時短にして仕事をセーブしながら働くことの難しさもわかりました。

そんな生活の中で駐在辞令を受けました。年齢的にも、今後のキャリア的にも挑戦するべきタイミングでした。今までの海外出張で、現地で仕事と家庭を両立する女性たちを見てきて、海外に出た方が日本より働きやすいかもしれない、と思ったのも受諾のきっかけになりました。

夫のシンガポール就労が可能か、結果が出ない中で準備が進んだので、手放しで喜ぶ状況ではありませんでした。結局、夫は休職する形となりましたが、仕事復帰への不安など多くの葛藤があったと思います。

<Bさん:駐在は想定内。夫の反対はなかったけれど、コロナに振り回される>

Aさんと同じく、駐在を経験した方がいいという会社のカルチャーなので、海外駐在は想定内ではありました。夫は、女性は家にいるより働いていてほしいと考えるタイプで、女性駐在員という選択に積極的に応援はしないけど、反対もしないというスタンスでした。

フレキシブルに働ける夫は、日本とシンガポールを行き来する生活の準備していました。そんななか、コロナで行き来が叶わなくなり、夫は日本に残ったまま、シンガポールで暮らす子供としばらく会えない状況となり今に至ります。日本では子供の面倒はほぼ折半しており、子供が大好きな夫は寂しい思いをしているので、できるだけ頻繁に子供とビデオ電話しています。

当初はメイドさんを雇う予定でしたが、コロナ禍で困難となり、急遽、実家の母に帯同をお願いしました。父はすでに亡くなっていますが、母は友人も多く、日本を離れることに難色を示しました。いつでも戻れるからと説得して(結局できていませんが)、帯同を決意してくれました。母は社交的な性格で、今ではローカルの気功サークルに入ったりして、こちらでお友達を作って生活を楽しんでいます。

男性駐在員との違いはありますか。シンガポール駐在の良い点、大変な点は。

<Aさん:男女で違いはなし。シンガポールは非常に子育てしやすい環境>

シンガポールは安全で、日本の物も手に入りやすく、環境的に非常に恵まれている駐在地だと感じます。

もともと派遣される時点である程度考慮されていたかもしれませんが、私の場合は、業務内容に男女で違いはない職種です。業務時間外では、コロナ以前は会食などもそれなりにありましたが、許容範囲でした。

メイドさんを雇えて家事をアウトソースできるのがありがたく、子供の病気対応が日本に比べてずっと楽です。日本では家事代行サービスを活用していましたが、病児シッターを探すのが大変でした。ただし、救急病院にかかるなどの非常事態になれば、言葉の壁もあり、対応できるのは自分だけという心配とプレッシャーは常にあります。

<Bさん:仕事内容で違いはなし。教育環境に恵まれたシンガポール>

私の部署は二人しか駐在員がいないので、仕事の中身も量も男性と違いはないです。ただし、直前に夜の会食等に誘われる場合はお断りすることが多いです。一週間ほど前から計画されていたら、家族の都合をアレンジして参加します。

シンガポールは安全で、子供の教育環境が整っている面がありがたいです。小学生の子供たちは日本人小学校に通っており、転校によるストレスは少なかったと思います。ただし、放課後に子供たちが過ごせる学童のような場所がなくて困ったことと、ホリデー期間に子供が楽しめるイベントを見つけることに苦労しています。

帯同されている家族との役割分担について教えてください

<Aさん:勉強と育児を両立する夫。週に1-2回の飲み会は確保>

夫は現在オンラインMBAを受講しています。家から受講でき、最初のカリキュラムでは日本語のサポートもあり、徐々に英語に移行することができますので、働きたいけど働けない駐在妻さんにもおすすめです。ターム中は忙しいですが、フレキシブルに勉強できるようです。

家事全般はメイドさんにやってもらい、夫は保育園の送迎、朝の準備、お風呂、寝かしつけなどをメイドさんと協力しながらやっています。

人によって向き不向きがあると思いますが、夫は子供好きで育児に向いているタイプです。子供が男の子だからか、パパと体を使って遊ぶのが嬉しい様子で、パパとの時間を楽しんでいます。

一方、社交的な性格もあり、好きなスポーツのクラブに入ったり、県人会に出席したり、子供のママ友を介してパパ友を作り、人脈作りや限られた時間の海外生活を楽しもうと意識しているようです。週に1-2回、夜、自由にスポーツの集まりや飲み会に行けるようにしていて、大切な発散時間になっているようです。

シンガポール生活を充実させるべく頑張っている夫ですが、それでも、現在働けていないことへの葛藤は日々抱えていると思います。

一方の私は、残業や会食で遅くなる日が週に半分ほどあり、ゆっくり育児ができるのは週末です。

<Bさん:おばあちゃんはスーパーメイドさん。自分は一人二役>

私の母は(子供から見ておばあちゃん)スーパーメイドさんと自他ともに認めるほど家事が得意で、食事、掃除、買い物、子供の世話をしてくれます。私の仕事の帰りは早くて6時半、だいたい7時半ごろで、飲み会がある日は、帰宅したらすでに子供は寝ています。

夫が日本なので、自分は一人二役でパパの分をカバーするように意識しています。勉強を見るのも私の大事な役割です(だいたい叱ってますが。)

子育てで大切にしていることは何ですか

<Aさん:パパでもママでもいい、親との時間があって、愛されている実感を持っていてほしい>

駐在員として仕事をするということは、多くの責任と仕事が自分の肩に乗るうえに、周囲に自分をカバーできる人が限られている環境です。日々、目先の仕事を大量に片付けなくてはなりませんし、子供が遊びたそうにしていても、週末に働くこともあります。多くのお母さんと比べて、子供と接する時間は少ないと思います。

私たちにとって大切なのは、子供が親とすごす時間があることで、それはパパでもママでもいいと思っています。子供が愛されている実感を持っていれば、形が違っていてもいいと思うのです。

<Bさん:子供がやりたいこと、興味を持ったことは何でもトライさせてあげたい>

我が家も私が子供たちと日々接する時間は少ないですが、すでに小学生だからか、ママがいないとゲームができて嬉しい、と思っている節があります。幸いコンドに日本人が多く、お友達といつも遊んでいて、我が家の状況を理解しているご近所さんに助けられています。

意識しているのは、子供が興味を持ったことは可能な限り何でもトライさせてあげること。息子たちが今好きなのは、バドミントン、バイオリン、そしてバス旅。ローカルバスが大好きで、タイムテーブルを自ら調べて何時間でもバスに乗っています。週末、それにつきあうのは私の役割なので、ローカルバス旅をした日は乗り物酔いになります(笑)。

ママ駐在員はまだ珍しいと思いますが、今後、後に続く後輩に伝えたいことはありますか?

<Aさん: 駐在は家族の理解と覚悟がいること。それを含めて夫婦や働き方の人生設計を>

駐在生活は、異文化環境の中、多くの責任を引き受ける非常に負荷の高いものと感じます。

環境の変化が伴い、家族の理解が不可欠なので、その前提で家族のあり方を夫婦間で柔軟にプランできるといいかもしれません。一方で、家族観、働き方はそれぞれです。無理に駐在員をやるべきだとも思いません。

女性の駐在はまだ珍しいからこそ、いろんな人のいろんな感情に向き合うことになります。親族に反対されたり、社内にロールモデルがいなかったり。私の場合は、夫のご両親の理解があったことに大変助けられました。

道を作るのは大変ですが、私の周りでも事例は増えつつありますので、女性の働き方の選択肢のひとつになっていくのではないかと思います。

<Bさん:勢いに乗ることも大切。出来る前提で、やれることを探して動いてみてほしい>

駐在員になるのは、とてもエネルギーがいること。困難がたくさんだからこそ、考えすぎると動けなくなるかもしれません。会社の人事はタイミングもありますし、チャンスを活かし、何とかなると思って勢いに乗ることも大切だと思います。

駐在女性はまだ珍しいけれど、そもそも昔は働く女性の存在が珍しかった時代がありました。駐在する女性が増えれば、少しずつ普通になっていきますので、チャレンジする人が続いてほしいです。

駐在生活で、チャレンジしたいこと、やってみたいことはありますか。

<Aさん、Bさん:業務を滞りなく満了し、家族が心身ともに健康でいることだけ>

とにかく、任務を無事に完了すること、家族が無事で健康であること、それ以上のプラスアルファのチャレンジは思いつきません。自分が失敗をすると、後に続く後輩たちに影響が出るかもしれませんし、健康に、しっかりと業務を遂行することが今の目標です。

はたママメンバーへのアドバイス

<Aさん:一緒に頑張りましょう!>

アドバイスというよりも、働くママ同士、ぜひ一緒に頑張りたい、という気持ちです。

私が以前上司から言われたアドバイスは、「履歴書に書けるキャリアを作るとよい」、ということでした。シンガポールで働くことはまさにそうで、貴重な経験になると思います。

<Bさん:なんと言われても、やると決めたらやっていい>

前例がなかったり、今までの価値観と違うことをすると、いろんな事を言う人が出てきます。それでも、やると決めたらぜひチャレンジしてほしいと思います。

 

座談会を終えて

お話を伺って感じたのは、ママ駐在員というくくりに意味はなく、真摯に仕事に向き合い、責任を全うしようと頑張る、プロフェッショナルな一駐在員の姿でした。

ママやパパはこうあるべき、という固定観念はそこにはなく、親として子育ての方針を決め、パートナーや家族と役割を分担し、協力しながらやっていくフラットさがありました。

どんな働き方を選んだとしても葛藤やチャレンジはあり、今までにない働き方であればより大きいかもしれません。それでも多くの人々が、より自分らしい、それぞれの家族らしい多様な選択ができる未来になればいいなと願います。

Event planning and organized by Naomi Tanno, Tomoko Kamiya
Interviewed by Tomoko Kamiya
Written by Naomi Tanno
Special Thanks to 2 guest speakers

※本サイトの情報は、掲載時点の情報です。掲載後に情報が変更になることもありますのでご了承ください。