はたママインタビュー17回目は、シンガポールでプログラミング・アニメーション教室「Shift」を運営し、企業向けデジタルマーケティング戦略コンサルタントとしても働かれる山口路恵(やまぐち みちえ)さん。
今でこそ、とても精力的に活動されていますが、駐在帯同のために会社を辞めた折には「自分には何も無い」と気持ちがどん底まで落ち込んだ事もあったとのこと。
どのようにやりたいことを見つけ、今に至ったのか。そして、どんな想いで活動されているのか。お話をお伺いしました。
新しいことを始めるのに遅すぎることは無いのだ、と勇気をくれる路恵さんのストーリーです。
思い切って仕事を辞め、
自分自身と娘に思いっきり向き合おうと来星
夫の海外駐在が決まったときに思ったのは、自分のキャリアと家族の在り方のことでした。駐在予定期間は3年~7年と幅が広く、家族はできるだけ一緒にいたいと思う反面、キャリアをいかに次に繋げればよいだろうかと悩みました。
年齢的に中堅のポジションに差し掛かっており、辞めることで会社に迷惑をかけるという後ろめたさもありましたね。
結局、夫は駐在の内示から1か月で来星。私と娘は、私の仕事との兼ね合いで4か月後に合流しました。
前職は、経営戦略などを担うコンサル系の仕事をしていたのですが、課題の分析をして、解決案を提示する仕事は、元々好きだったこともあり、来星後に同業種で職探しをしようかとも思いましたが、激務になることも多い業界。異国の地で、娘との時間を確保しつつ仕事をできるのか、かなり不安がありました。
考えた末、思い切って仕事を辞め、自分自身と娘に思いっきり向き合ってみようと決断。環境に慣れることを優先し、娘が行きたい場所に出かけたりしながら過ごしました。
「自分には何も無い」心がどん底に落ちた後の決意とは?
一方で、キャリアパスを失い、心は空洞化。悶々とした気持ちを抱えるようになりました。
会社を辞めて思ったことは、「自分には何も無い」という事実でしたね。会社では、すべてチーム制で動いていたので、私自身に網羅するような専門性があるわけではないという事実を実感し、とても戸惑ったのを覚えています。
来星後半年くらいまで、心がどん底まで落ちこみました。ただ、ある時から、悩むことはやめようと決めて、「今、自分に何もないなら、今から作れば良い!」と前向きに考えるようになりました。夫の駐在に帯同する私達は、確かにキャリアは描きにくいですが、一方で、会社で働いていたころはできなかったことをやってみる機会にもなるというメリットもあります。そこに注目して、ポジティブに捉えていくことにしました。
夫の駐在期間や次に配属される場所は、予想がつかないので、とりあえず2年間という期間を自分の中で決めて、とにかく自分の内面に向き合い、今までやりたかったことを片っ端からやってみようと決めたんです。
今までは、何かを始める際に、それをやる理由や意義を考えてから判断する事が多かったように思います。つまり、「どう自分の役に立つのか」を考えてしまうんですね。でも、やる意義を考えるのを一旦やめて、「やってみたい」という子供の頃のような純粋な気持ちを大切にしてみようと思いました。
約半年の間、娘と向き合う中で、子供をじっくり観察していると、本当に無邪気に興味があることに全力で向かっていき、目を輝かせているんですよね。私も含めて、大人も皆、昔、そのような時があったはずなのに、いつの間にか、「何の役に立つか?」というのを先に考えてしまう。その途端に、やりたいことが見当たらなくなる。
今考えると、やりたいことは、最初のうちは、ほとんどがきっと役に立たないもので、それを磨いているうちに、自然と専門性が身についていたり、何か別のものが閃いたりする。そんなものじゃないかと思います。
やってみたいことを片っ端からやる!そして見えてきたこと
そうして、今までやりたかったことを片っ端から試していった結果、継続しなかったものもたくさんありますが、特にやりたいと思える事、継続できる事が自然と見えてきました。私の場合、それらは以下のような事でした。
- 動画編集等を勉強して、YouTubeチャネルの作成。再生回数増加のアルゴリズムを研究。
- まとめサイトのブログを立ち上げ、運営する。
- アニメーション制作を勉強して、アニメを作る。アニメを作る際に、プログラミングの知識があると、より深いアニメーションが作れることを発見。
- プログラミングを深く学ぶために、色々な講座を受けて、AIやVRなどの最新技術を学び、アプリを作る。
- 趣味のレジングッズを作る。
興味を持つきっかけは色々で、たとえば、プログラミングに関しては、最初、娘がプログラミングで動くおもちゃや、You Tubeのアニメーションに興味を持ったことが、一つのきっかけでした。「似たものが作ることができたら、娘と楽しめるかな」と思ったのです。前職では、プログラミングを使って、データ分析/管理をしたり、予測値を立てたりしていたので、これを機に、より深く探求しようと思いました。
このように、脈絡がないことをひたすらやっていく中で、「何かできる」、「新しいことができる」という自信になっていきました。
そして、今後のキャリアパスを考えた時、「夫の駐在期間は不明で、今後の配属先も分からない。この事実は変わらない。それならば、私自身が柔軟にどこでも働ける職種を自分で作れば良い」と考えるようになりました。
想いを持ってオンライン型のサービスを立ち上げ、活動開始
今まで、職業柄、パソコン/ITテクノロジーには強い方だったので、それを活かしたサービスを作ろうと決断し、子供向けの講座、大人向けの講座、法人向けサービスを提供する「Shift」を立ち上げました。
企業向けでは、DX支援を提供。個人向けでは、プログラミング、アニメーション、YouTube戦略支援、ブログ作成支援などのサービスを提供させて頂いています。わかりやすく整理して説明するという、コンサル的な要素と、来星後に強化したITスキルを組み合わせたものをサービスの主格にしています。
プログラミングを学ぶと、どんな良いことがあるの?
「子どものうちから、プログラミング等を習うとどんな良い事があるの?」とよく聞かれるのですが、思考力と創造性を養えるのが大きな特徴だと思っています。
大学時代、アメリカNY州にある州立大学に通っていたのですが、とにかく議論が多く、自分のロジックがしっかりある子が多かった印象です。そこから、私も感化され、とにかく論理構造を学び続けた学生時代でしたが、ロジックは、自頭力というよりも、訓練で誰にでも備わる能力なので、それを子供達にも広めていきたいという思いもあります。
また、プログラミングスクールなのに、アニメーションやYouTube制作をサービスとしているのも、実は、コア部分が一緒だからです。
アニメーションは、実はプログラミングと通ずる部分があり、簡単なコーディングを通じて、キャラクターを動かしていくので、ロボット制作などには興味を持てない子でも、アニメなら興味を持てるという子もいます。YouTube制作でも、動画編集もやりますが、それを主軸にしているわけではなく、「誰にどんな動画を届けたいのか?」ということを子供達と深く考えながら制作していきます。思考力と分析力が無ければ、チャンネル登録者は伸びませんので、アナリティクスも見ながら修正していきます。
要は、どんなことがきっかけでもいいのですが、その子が好きなことから、思考力や分析力を付けていけばよいと考えています。私達は、そのきっかけを提供したいと思っています。
思考力や論理性、創造性があれば、今後、未来がどんな風に変わっていったとしても、自分の道を模索して、活躍の場を見いだせる人物になることができると思うのです。
企業向けサービスでは、DX(デジタル・トランスファメーション)の文脈で、何か企業内で業務効率化ツールを作る際や、社内に蓄積されたデータなどを活用して、新規サービスを検討したい場合などにご相談を受けることがあります。アプリ制作会社とのやり取りなどがスムーズにいかず、結局あまり使われないツールが出来上がってしまうというのは、よくある話で、私達のような存在が貢献できるなら、嬉しいことです。
仕事をする中で、嬉しい瞬間はどんな時?
このような活動をする中で、先方が喜んでくれた瞬間が一番嬉しいですね。教えている子どもがプログラミングにはまって成長していくのを目の当たりにしたり。企業の方が「今度は、しっかり使える業務効率化ツールができそうだ!」と喜んで下さったり。
会社員として働いていた際は、部門ごとに仕事が細分化されていたので、担当する範囲の専門性だけを身に付けていく傾向が強かったのですが、個人で働くようになって、幅広い分野に関わっていけるのが、楽しいですね。
今後は以下の活動に力を入れていきたいと思っています。
- オンライン・プログラミングのサービスを広げて、世界中誰でも好きな時に、プログラミングを学べる総合プラットフォームを立ち上げたい
- YouTubeのアルゴリズムを熟知したことを活かして、検索順位を上げるための支援を広げたい
- 企業向けのデジタル化支援を広げていきたい。
悩んでいても何も始まらない。とにかく進んで行こう。
どんなに無謀と思う環境や状況でも、自分が動かなければ、誰かが助けてくれることは無いということ。また、前に進んでいる感覚が無いと、自信が無くなり動けなくなるということを実感しました。それならば「とにかく進んでいこう」と心に決めることが大事だと思っています。
同じマインドを持った「はたママ」に所属しているメンバーと交流する時間を得たことも、私にとっての転機になりました。大切な出会いがたくさんあり、皆で切磋琢磨して励ましあい、情報交換しながら進んでいくことで、「一人ではない」という安心感をもらいました。発起人のまっきー(小野麻紀子さん)をはじめ、頼りになる先輩方に囲まれたことで、本当に多くの力を頂き、感謝しています。
自分には何もないと思っても、そこからスタートして2-3年も頑張れば、何か専門性を身につけることはできるし、その知識や経験を通して、人に喜んでもらえたら、最高にハッピーだと思います。
悩んでいても何も始まらないなら、とにかくもがいてみることで、見える世界が広がったり、助けてくれる心優しい人達にも出会うことができる。今はそう思っています。そして、今度は、私が誰かの役に立つことができたら、とても嬉しいです。
Profile
山口 路恵(やまぐち みちえ)
北海道札幌市出身。在星歴3年。海外大学卒業後、経済産業省にて、化学物質規制関連の条約交渉を担当。その後、コンサルティング会社に転職し、データアナリティクスを含めた経営戦略の企画立案に携わる。2018年来星後、AI分析を含めたアプリ開発に従事。2021年、STEM教育の先にあるコンピュータサイエンスを広めるべく、オンラインクラスを開始。現在は子供向け講座に加えて、大人向け講座、さらには法人向けデジタルマーケティング戦略支援を提供する「Shift」を立ち上げ、活動している。
- 提供サービスの詳細についてはShift HPをご覧ください。
- 子供の教育に関するお役立ち情報満載のFacebookグループ子供の未来教育ラボfrom Singapore(路恵さんが運営)はこちら。
家族構成:夫、娘1人(5歳)
好きな場所:ビーチ、Bukit Timah自然保護区、Botanic Garden,
好きなもの:ジョギング、カフェ巡り、雑貨探し、読書、レジンクラフト作り
一日の過ごし方
午前:7:00起床➡8:00娘のお見送り➡8:30掃除など➡9:00仕事開始/クライアントと打合せ➡15:30娘帰宅➡娘との団らん➡21:00-23:00仕事➡ 23:00-0:00読書➡0:30 就寝
Interview and Written by Kaori Horita