インタビュー

リモート(在宅)でどこでも働ける時代。シンガポールで試行錯誤の連続。でもトンネルは抜けられる!はたママインタビューProfile007:中野円佳

はたママインタビュー7人目は、2017年春にパートナーの赴任に帯同して来星し、当地でもジャーナリストとして活躍をしていらっしゃいます中野円佳さん。「海外×キャリア×ママ サロン」というコミュニティを主宰し、世界中のママの交流・情報交換の場をつくる活動の他、当「はたママWeb」のアドバイザーもしてくださっています!

2014年に出版された著書「育休世代のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか?(光文社)」は、はたらくママの心理を丁寧に記述し、女性活用のための社会課題に光を当て、多くの反響を与えました。そんな輝かしい経歴の円佳さんも、来星後の1年は試行錯誤の毎日だったそうです。その1年を振り返って今の心境を語っていただきました。

 

試行錯誤の毎日、でもトンネルはいつか抜ける

リモートで世界中どこでも働ける

 

 

帯同に迷いはなかった、リモートで働き続けよう

 

夫から海外赴任の話を聞いたとき、一緒に行くことに全く迷いはありませんでした。もともと新聞記者時代から私も夫も転勤の可能性がある仕事をしていたので覚悟はしていましたし、もともと海外で暮らしてみたいという思いもありました。当時は、会社員と大学院生、ジャーナリストとしての発信を並行させていた状態で、どういう働き方をしたら自分にフィットするかを常に模索していたんです。

 

ジャーナリストとしてできるだけ物事に中立で客観的でありたいという思いが、事業会社で仕事をすることと噛み合わないと感じていた頃でもありました。働き方、仕事内容、ともにそろそろ変える時期かと思っていたタイミングだったのも、決断を後押ししました。

 

仕事はリモートでできるという見込みもありました。大学院の研究にもっと時間を割けるだろうという前向きな気持ち、ジャーナリストとして海外に住むことで得られる新たな視点への期待もありました。家族にとっても、長時間労働が常の日本から脱することで、夫のワークライフバランスが改善するだろう、子供の教育環境も向上するだろう、というプラス面での要素が多かったですね。

 

来星後に、MOMに帯同ビザ〔DP〕で、日本企業から依頼を受けてリモートで仕事をすることは可能だと確認できたので、自宅で記事を書く仕事を再開しました。※

 

 

 

期待通りにはいかなかった、来星後半年は暗いトンネルをさまよう日々

 

来星後すぐにローカル幼稚園に通いだした当時5歳の長男。すぐに幼稚園には馴染んで楽しそうに通っていたのですが、一時期、家では1日1回は大きな癇癪をおこしていました。それが環境変化によるものなのか、その年齢でよくあることなのかわからず、何がきっかけで火が付くかわからず毎日びくびくしていました。

 

たとえばブロッコリーとハムが入った卵焼きを作ったら、「ブロッコリーだけが良かった!!!!」と激怒するとか。ブロッコリーだけのを作りなおしたら今度は「熱いのは嫌!」、冷めたら「冷たくて嫌」になるわけで、結局何か理由をつけて暴れたいというだけにも見えました。一度“爆発”すると1時間くらい手が付けられなくなり、こちらも怒鳴り返してしまったり、1歳半の妹に危害が加わらないようにひたすら逃げたり。その当時のことを詳しく思い出せないくらい辛かったです。

 

今思えば、英語ばかりの幼稚園に入り、子供なりに大きな環境変化に戸惑って、家の外では我慢していたのかもしれません。

 

長女は当初慣らし保育だったのでお昼には幼稚園に迎えに行っていて、3時半には長男が帰宅するという生活になり、保育園に預けて仕事をしていた日本とは生活リズムが大きく変わりました。子供と一緒にいる時間が増えたけれどその時間をどう過ごしてよいのかわからない。仕事や研究向けの本を読む暇さえない。そんな毎日に私自身も鬱々としていました。そのストレスからか激しい胃腸炎を繰り返していました。頼りたい夫は日本にいたときよりも出張が増え、ほとんど家にいないワンオペ育児状態。家庭内が悪循環に陥り、家事も育児も投げ出したくなる日もありました。

 

その母親の心の動きも、長男の心理へ影響を与えていたのかもしれません。

 

8月からメイドさんを雇い始めて自分の心に余裕ができてきたこと、長女の幼稚園も長男と同じ15時半までになったこと、2人とも幼稚園の帰りに外で遊べる友達ができたこと、それらが相乗的に良い方向に作用したのか、少しずつ癇癪は減っていき、ようやくトンネルの出口が見えてきました。

 

 

 

我慢していた日本への一時帰国。やってみたら心が楽になった。

 

他にも、私の心を楽にしてくれたきっかけが2つあります。1つ目は10月頃にNUSのLKYスクールで行われていた「地政学プログラム」に参加したこと。スーツを着て、東南アジアの最先端の情報を専門家から学び、ビジネスの最前線にいる同級生とディスカッションし、たくさんの刺激を受けました。家に籠って仕事をして、子供の相手をするだけだった私にとって、そういう場に身を置くことが久しぶりで、自分が生き返ったような感覚でしたね。

 

2つ目は12月に一時帰国したこと。あまり早く日本に帰ると子供達が当地に順応しづらくなるかなと考え、帰国をあえて我慢していたんですよね。でも、一時帰国時に仕事仲間や友達などに会ったら、すごくほっとしました。自分を必要としてくれる人がいる、忘れずにいてくれる人がいる、と仕事上の自信も取り戻せたし、本当に辛かったらこうして帰ってきちゃえばいいんだっと気が楽になりました。

 

リモートで仕事をしていると日本との感覚のズレみたいなものを感じるときもあり、少し焦りにも繋がっていたのですが、こうして帰国した際にコンタクトを取り続ければ大丈夫だと安心もでき、心のザワザワが落ち着きました。皆さんも「我慢せずに一時帰国してください!」と声を大にして言いたいです(笑)

 

段階を踏んで楽になっていき、2018年に入ってからは生活も仕事も軌道にのってきたという実感がありました。現代ビジネスでの連載をまとめた2冊目の著書「上司の「いじり」が許せない(講談社現代新書)」を出版できたことも、1つのメルクマール(転換期)になりました。

 

5月からはこちらにある日系企業でパートの仕事も始めました。子ども二人をスクールバスにしてからは住み込みのメイドさんは雇うのを止めたのですが、長男もかなりお手伝いも自分のこともしてくれるようになり、家事・育児も力を抜きながら自分でやっています。コンド内に頼れるママ友や子どもたちの仲良しもできたので、1年前とは比べ物にならないほど安定してきました。

 

 

 

 

リモートで働いてみたい方へのアドバイス

 

駐在妻の方々の中には、夫の帯同のため不本意に会社を退職せざるを得なかった方も多いかと思います。会社員を辞めてしまうと、収入面が不安だったり、専業主婦という立場に自分には価値がないと感じたりして、落ち込んでしまいがちです。私もそういう思いはありました。

 

リモートで働くという選択肢は、収入が固定しない不安定さ、雇用継続が保障されない不安、などもありますが、月単位ではなく、年間単位で収入のバランスを見るようにするとよいかと思います。仕事の依頼が少ないときは、次の仕事のために本を読んだりスキルを増やしたりインプットの時間に充てるなどしてバランスを取っています。

 

距離が離れていることでのコミュニケーション不足も課題ではありますが、メールで済むこともあえてテレビ電話等で顔を見ながら会話したり、一時帰国時に発注元と対面でのミーティングをしたり、意識して取り組めば、そこまで問題にはならないと感じています。

 

キャリアを途切れさせずに、少しずつでも仕事を継続していくことが帰国後にも必ず活きると思うので、リモートで働くという選択肢をぜひ検討してみてください。

 

また、私自身が今年から週2程度のパートを始めました。1つの仕事で退職前と同様の収入は得られなくても、リモートワークとパートを組み合わせて積み上げることで価値を生み出すことはできます。家事についてもメイドさんに一時期いてもらったことで、いなくなった後は【メイドさんに支払っていた分の家事を自分がしている】=【自分は8万円程度の価値の仕事をしている】と再認識できて、自分が家事をすることに不思議に納得感を得られたりもしました。リモート+パート+家事労働 で私は価値を生み出せていると思うと、稼ぐ力にも自信が生まれます。

 

 

シンガポールでこれをやりたい!中野さんの野望とは?

 

シンガポールの大学院に行くことも考えて調べてはありますが、まずは現在所属している大学院の博士論文につながる研究をしなくてはと思っています。アカデミックの領域で議論されていることは論文や学会発表に留まっていて社会に広く認識されずもったいないものが多いと感じています。私はアカデミックな立場とジャーナリストの立場の両面をもっているので、その間をつなぐような発信をしていきたいと思っています。自分の論文のために、来年度ぐらいにはシンガポールのローカルママに対するインタビュー調査を進めて、シンガポール社会にもっと詳しくなりたいですね。

 

また、企業人事の方々の勉強会を主催されている団体と接点があり、転勤の問題について企業人事がリアルな声を欲しがっているニーズに気付きました。これまでは男性が中心だった海外赴任や転勤。制度もそれに合わせて作られていたので、いざ、女性が海外赴任・転勤となった際に、非現実的な制度に悩まされている方が多いようです。

 

昔ながらの制度を変えなきゃいけない、でも何をどう変えたらいいのか、そのニーズを人事側がキャッチできていないのが実情のようです。私自身、主宰する「海外×キャリア×ママ サロン」等を通して、いろいろなケースを見ているので、人事の方とディスカッションして転勤に対する古い枠組みを更新していく手伝いをしたいと思っています。

 

 

 

 

 

※MOMへの問い合わせ

下記の通り返答を得ていますが、個人により状況が異なると思いますので各自ご注意ください。

“A Letter of Consent (LOC) will not be required when: 1) You are working for an overseas company from home; and 2) The overseas company has no local presence; and 3) You are not meeting or providing services to clients in Singapore.”

 

■profile

中野円佳 なかのまどか

東京大学教育学部を卒業後、「日本経済新聞社」で記者として勤務。1人目の育休中に立命館大学大学院先端総合学術研究科へ通い、修士論文としてまとめた内容をもとに2014年1冊目の著書「育休世代のジレンマ 女性活用はなぜ失敗するのか?(光文社)」を出版。

復職してから1年半後の2015年に新聞社を退職し、企業を人材育成の視点から変えていくコンサルティング企業「ChangeWAVE」に入社。正社員として働きながらも、新たに東京大学大学院教育学研究科博士課程へ通い、ジャーナリストとして個人名での発信も継続。入社後半年で2人目の育休取得。

その後、2017年春にご主人のシンガポール赴任に帯同して、シンガポールへ拠点を移し、企業を退職。

フリーのジャーナリストとしてリモートワークで執筆活動を進めながら、大学院での研究の継続、2018年5月からは週2回のパート勤務も始め、パラレルな働き方を実践中。

夫・子供(6歳、2歳)の4人暮らし。

好きな場所:海の見えるところ、日本の川遊びや虫取りができる場所

好きな言葉:The personal is political

好きなもの:日本の高度でオシャレな文房具、カヤトーストとか甘いモノ全般

 

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Photo by Naomi Tanno
Interviewer by Masayo Hada
Written by Nao Fujita

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