インタビュー

女性駐在員で出産。シンガポールでキャリアと育児の両立に挑戦し続け新たな前例を作りたい! はたママ・インタビュー Profile 009: 清水 佐紀

はたママインタビュー9人目は、愛称セリーヌこと清水佐紀(しみず さき)さん。

2015年3月、日本からの長期出張者として来星後、9か月の滞在を経て駐在員に。働かれている会社で、初事例となった夫婦そろっての赴任を経験された佐紀さん。ジョン・D・クランボルツ著『その幸運は偶然ではないんです!』に深く感銘を受けた、佐紀さんの今までとこれから、についてお話いただきました。

 

シンガポールは産後も働きやすい環境だからこそ、チャンスを模索していきたい

 

シンガポールに来て3年半、いま娘は1歳なのですが、ここは働くママにとって暮らしやすい所だなと日々実感しています。日本で仕事漬けになっていたときは、まさか自分がシンガポールに駐在し、出産や復帰を経験する日が来るとは思ってもみませんでした。会社からシンガポールでのプロジェクト参加を打診されたときは、業界も領域も未経験だったこともあり、やっていけるのだろうかという不安もありました。

でも同時に、「やってみたい」という気持ちもありました。この道がベストかはわからなかったけれど、結局「やってみたい」気持ちが勝って、思い切って長期出張に来ることにしたんです。会社から聞いた期間は4か月。それならやってみようと。そんな思いで、シンガポールという新天地で一歩踏みだしてみたんです。

 

 

つねに学びの姿勢と好奇心を持っていたい

 

英語に興味を持ちはじめたのは、割と小さいころからでした。留学経験のある母が児童英語講師をしていたこともあって、英語が身近に感じられていました。高校と大学時代のアメリカ短期留学は、それまで受け身だった自分を変えたいという気持ちもあり、自分なりのチャレンジでした。

 

ホームステイ先の家族と

 

ホームステイ先の家族の子どもと

 

思い切って踏み出してみたことで、「チャレンジすること、行動してみることって楽しい」と気づくことができ、「海外は自分に刺激をくれる、成長させてくれる場所」と思うようになりました。就職は外資系でなく日系のコンサルティング会社でしたが、いつか海外で働きたいという気持ちはずっと持っていました。

社会人になってからの転機は、入社5年目のことでした。当時は仕事が重なり忙しい毎日を過ごす中で、上手くセルフコントロールができず体調を崩してしまい、一度職場を離れることとなりました。昇進直後でこれからという時に、なぜ自分がこういう目に遭うんだろうと、自分の状況を受け入れたくなくて落ち込みましたね…。

漠然と描いていたキャリアプランとは異なる想定外の出来事に、自身のキャリアの限界を感じ、呆然としたのを覚えています。そんな私の心の支えになっていたのは、友人の勧めで読んだジョン・D・クランボルツ著『その幸運は偶然ではないんです!』に書かれていたキャリア論「計画された偶発性理論 (Planned Happenstance Theory)」でした。

「人生には想定外の出来事がつきもので、それが個人のキャリアを左右する。だからこそ、自分に起きたことを最大限に活用すると共に、行動を起こすことで“偶然”を作り出すことが重要だ」という考え方です。

もともと「転んでもただでは起きない」という負けず嫌いの性格ということもあり、ちょっとずつやれることを頑張っていこうと前向きになることができました。仕事から離れている間は、周りからの勧めもあり復帰に向けた準備として図書館に通いつめました。復帰後のより良いキャリアにつなげていけるようにとインプットを欠かさず、150 冊以上の本を読みました。

振り返ってみれば、これも大事な自分のステージだったんですね。周囲のサポートのおかげもあり、無事に職場へ復帰することができました。

復帰後に関わり始めたのが、クライアント先でのプロジェクト業務ではなく、社内のグローバル人材開発でした。以前から興味のあった分野でしたし、まだ会社で何もやり切ってないという気持ちもあり、また3年ほど仕事にのめり込みました。

その後、プロジェクト業務に復帰してしばらくした頃、シンガポールへの長期出張プロジェクト任務の話が舞い込んできました。遠距離結婚という点には迷いましたが、モヤモヤしているならやってみよう!と、これを新たなチャンスと捉え、ここで日本から出る判断をしたことが、2つ目の転機になるでしょうか。

 

女性駐在員の出産は前例がない。でも、前例は作れば良い。障壁ではない。

 

シンガポールには当初4か月滞在の予定が、プロジェクトの継続で計9か月もの長丁場になりました。でも実は、私個人にとっては嬉しい延長でしたね。多国籍な職場で、いろんな価値観やバックグラウンドの人たちと仕事をしながら暮らしてみて、シンガポール生活は楽しい、もう少しいたいと思うようになっていたんです。

その一方で社内結婚の夫は、東京と欧州を頻繁に行き来していて、夫婦でバラバラの生活をしていました。夫は私が体調を崩す前からずっと自分の支えになってくれているので、離れ離れの生活が長引くと心細いな、と感じていました。

自分の後任も決まりシンガポールを離れる事が現実的になったとき、なんと次は夫がシンガポールのプロジェクトに関わることになり、上司から夫婦で駐在はどうかという打診がありました。日本帰国に向けて心が固まっていましたし、そろそろ出産を視野に入れていたこともあって、正直なところ、困惑しました。

女性駐在員が出産をした例は当社にはなく、難しいと思っていたためです。でも当時の上司が「前例がないからといって、出産してはいけない訳ではない。その時はサポートする」と背中を押してくれたおかげで、不安な気持ちを前向きに変えることができました。

結果、夫婦揃ってシンガポールで駐在できることになり、それからしばらくして出産しました。シンガポールで出産・復帰を経験できたのは周りのありがたいサポートがあったからですね。

偶然の出来事を前向きにとらえ、その時できることを自分なりに取り組んできたことで、私の人生は切り開かれた気がしています。以前は明確なキャリアプランを描けていないことが、自分としてはコンプレックスだったのですが、人生かけて自分を発掘していくのも面白いなと思うようになり、今は心が楽になりました。

 

キャリアと育児の両立には夫やヘルパーとのチームワーク&コミュニケーションが大切

 

シンガポールで期間限定の産休では、子供を連れて音楽教室やベビーサインのクラスにも通い、これまで接点の無かったママ友とのお付き合いは新鮮でした。この、はたママのコミュニティー発起人のまっきーこと小野麻紀子さんには、日本にいる共通の知人が紹介してくれました。

コミュニティーで情報交換をしたり、お互いの悩みを話したり聞いたりすることができるありがたい居場所だと思いますね。働くママのヘルパーさん経験シェアイベントにも参加して、体験談をいろんな方から伺ってみて、自分が住み込みヘルパーさんを雇う前に参考にさせてもらいました。

今は仕事にフルタイム復帰しているので、娘をインファントケア(保育園)に朝から夕刻まで預け、家事全般をヘルパーさんに頼む、というスタイルで生活しています。夫はヘルパーさんに家事をアウトソースすることに大賛成、むしろ夫のほうが積極的でした。

母親が家事をしない姿を見て、娘がどう思うだろう、という点などが気になって、私のほうが最後まで悩んでいました。でも、夫と話し、気持ちの余裕を持って子供と向き合えるほうが、娘も嬉しいのではと納得し、雇い入れることを決めました。

ヘルパーさんとのコミュニケーションでは、気になったことを溜め込まずに話すように心がけています。当初気になったのは、日本語での「ただいま」「おかえり」「行ってきます」「行ってらっしゃい」という挨拶でした。家にヘルパーさんがいるのに「ただいま」と帰宅しても、もちろんのこと反応はなし。

しばらくはモヤモヤしていたのですが、ヘルパーさんと話して、私が大事だと思う日本語の挨拶について分かってもらえるようになりました。今ではきちんと日本語で返してくれるなり、心の距離が縮んだ気がします。

 

駐在期間は限定。だからこそ、オープンマインドに。

 

働いていると、子供と一緒にいる時間が限られているので、可能な限りいろんなことをアウトソースすることで私の気持ちに余裕ができ、その分子供と向き合えていると実感しています。仕事から帰ってヘトヘトの状態で家事もしなきゃいけないとなると、気持ちの余裕を持つのは難しい時もありますよね。

「ああしなきゃ、こうしなきゃ」と自分を縛り付けるのではなく、日本ではこうだったけど、シンガポールではこれもアリかも、と緩めてみるのもひとつだと思っています。せっかくのシンガポール暮らし、こういう違いも面白いなという視点を増やしていくことで楽しんでいきたいなと思っているんです。

子育てに関する最近の自分のこだわりとしては、毎日娘への「ありがとうタイム」を持つようにしています。ほんの小さなことで構わないんですが、いろんな感謝の気持ちを言葉にしてみています。子供だけでなく、夫やヘルパーさんにもいえることですが、日々感じている「ありがとう」の気持ちをちゃんと口に出して伝える。ただそれだけの事ですが、私自身もあったかい気持ちで一日を終えることができます。

 

歩けるようになった娘と手をつないで散歩するのが週末の楽しみ

 

娘が社会に出る頃には、日本がもっと女性にとって働きやすい社会になっていたらいいな、それに対して何か自分が貢献していきたいな、と漠然ながら思っています。シンガポールにいられるあいだ、娘にはシンガポールならではの様々な多様性に刺激を受けて、いろんな価値観に触れてほしい。そのためにもまず、私自身がオープンマインドでいて好奇心を持ち続ける姿勢を見せていくことが大切かなと思っています。

 

 

 

Profile:
清水 佐紀
2015年3月に長期出張として来星。9か月滞在後、駐在員に。
高校・大学時代に計3回、米国留学経験あり。日系コンサルティング会社にて会計システム導入やグローバル人材育成/開発、金融機関の業務高度化支援等に関わる。夫、1歳の娘とヘルパーさんの4人暮らし。
座右の銘は「今を生きる」。
影響を受けた本のひとつは『その幸運は偶然ではないんです!』(原題: Luck is no accident)ジョン・D・クランボルツ著。

 

Photo by Nao Fujita
Written by Masayo Hada

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