みなさんが19歳のころ、どこで何をしていましたか?
先日、私は素敵な「19歳」の日本人にシンガポールで出会いました。
その方とは、宮澤かれんさん(以下、かれんさん)。かれんさんは、障がいを持つ子どもたちなどの「手形」を集めてアートにする「ハンドスタンプアートプロジェクト)」の活動中。昨年より日本から海外特派員として、世界22か国を周りながらその手形を集めていました。
シンガポールはこの活動の19ヵ国目。かれんさんが来星との情報を聞きつけて、特派員は早速にインタビューを行いました。
19歳でなぜ世界一周をしようと思ったのか?!
大学は?就職は?将来についてどのようにどらえているのか。
遊びたい盛りに友達と離れるなんて!
はたママ特派員は、自分の19歳のころを思い出し、かれんさんが「なんてすごいことをしているのだろう」と、この若い世代の決断に興味を持ちました。
今回は、「未来をいきる女性応援特別企画」として、かれんさんの活動内容を紹介するとともに、決断するまでにいたる思いやその生い立ち、さらには活動を通じて「何を得た」のか迫りたいと思います。
ハンドスタンプアートプロジェクトとは
ハンドスタンプアートプロジェクトは、2020年の東京パラリンピックの際、「障がいをもつ子どもやその関係者の方々」の手形を集めて世界一大きなアート(絵)を掲げることを目的とした活動。これまでに、3万を超えるハンドスタンプが集まっています。最終的には、10万のハンドスタンプを集めることを目標としているそう。なお、様々な著名人もスタンプ活動を応援をしています(元日本代表前園選手など)。
「1人1人の手は小さくてもたくさんの人の手と手がつながれば大きな力になる」
団体代表の言葉にもあるように、障がいや病気があっても、「ハンドスタンプ」を通じてひとつの大きな絵を描きパラリンピックという舞台に出ることは子どもたちにとって「力」になるとの思いが込められています。
ハンドスタンプの活動は、主に日本国内で展開されていたのですが、かれんさんの参加により「海外の障がいをもつ子どもたち」へと広がりを見せています。
詳しくはこちら。
なぜ世界一周に?!根底にある3つのマインド
さて、かれんさんの世界一周の旅に話を戻しましょう。
彼女が10代で世界一周というユニークな決断をできたのは、次の3つのことがかれんさんのマインドの中にあったからだと、話を聞いていて思いました。
「自己肯定感」
「好奇心」
「強い意志」
まず、かれんさんの自己肯定感はどこから湧き出てきたのか?!。
(自己肯定感を醸成した島での生活)
この大胆な決断をできた背景に、幼少期の住環境やご家族の影響があったのではと、かれんさんは振り返ります。
かれんさんの出身は、東京都小笠原諸島の母島。人口約450人と小さなコミュニティではありますが、人口の約17%が15歳以下という比較的若い地域でもあるんです。島の魅力はなんといっても大自然。
もともと、かれんさんの親御さんは母島の出身というわけではなく、本島からの移住組。移住の理由はずばり「子育てのため」だったそうです。自然の中でのびのびとした育児・教育を目指されていたので、かれんさんを含めた3兄弟、高校まですくすくのんびりと育ったようです。
母島での暮らしは、たしかに都会に比べて不便なところもあるのですが、かれんさんはそこまで苦痛に感じたことはなく、むしろ島の生活が好きだと。東京でも少しだけ過ごしたことがあるのですが、その経験を経て、さらに島のたくさんの魅力を再認識したのだと言います。
また、親が主体的に「この島で暮らしたい」と思っていたからこそ、その満足オーラが出て日頃の態度に表れていた。だから、島を自然に好きになったのでは、ともかれんさんは続けます。
ここまで、話を聞いていて私はかれんさんと自分の娘の状況を重ねてしまいました。私たち家族も、シンガポール(海外)で暮らしたいと思って選択した今の生活。しかし、私は理想だった生活に満足している姿を娘に見せているのか。不満そうにしている親を見たら、娘は海外生活への印象が変わってしまうかもしれない…。そう、思いました。
身近にいる親が楽しそうにしていることで、子どもも自分の生活に対し満足度が高く過ごせる。満足度の高い日常を送る中、否定的に自分をとらえることはあまりなく、むしろ「自分は自分でよいのだと」思えるようになっていくのではないでしょうか。
かれんさんは、こうした島での愛ある満足度の高い生活を送るうちに、自然と「自分への肯定感も高めること」ができたのではと思います。自己肯定感が、「どこへ行っても私なら大丈夫」と思わせ世界一周への自信になったのではないでしょうか。
(強い好奇心を育てた多種多様な人とのかかわり)
かれんさんが海外に関心を持つようになったのには、お父様の影響が大いにあるのだと言います。お父様は、プロサッカー選手を目指していたことがあり、単身ブラジルのリオに留学したご経験が。幼いころから、この話を聞いていたかれんさんにとって、「海外」とはどこか身近なものだったそうです。
他にも、お父様の友人には、旅するカメラマンなど海外を拠点とした方が多くいたそう。こうした友人の話を聞くだけでも、海外は楽しそうなところとかれんさんには見えたそうです。
海外への好奇心が高まる中、かれんさんは高校2年生のときに都のプログラムを通じてオーストラリアに留学します。高校2年生といえば、日本であれば「進路」を意識する時期。しかし、留学中にかれんさんは、オーストラリアで進学にとらわれずに自由に自分の将来を考えている「同じ17歳」に出会い、進学以外にも道はあるのではと思い始めます。
こうして、留学を経て、世界にはまだまだ自分が知らない世界があるとも痛感されたことでしょう。また、海外で生活している「オトナ」との交流を通じて海外生活がとても興味深く写ったことと思います。
これらの経験が海外への強い好奇心を育んだと感じました。
なお、個人的には、留学だけが「海外志向」になる唯一の手段ではなく、「海外を経験した人(日本人)」との交流も、また世界を知るための大きな窓になる可能性があることを気づかされました。
(自分の将来を見つめたいという強い意志)
先ほども少しふれたように、かれんさんはオーストラリア留学中に、「ギャップイヤー(進学せず1年ほど好きなことをして過ごす)」を選択する同級生に出会いました。ギャップイヤーとは、欧米諸国で高校卒業から大学進学までの期間をいい、近年ではこの期間を自主的に延長して自分のやってみたいことをする学生が増えているそうです。
かれんさんは、ギャップイヤーに強く魅力を感じたのだそうです。大学4年という時間は、将来の仕事や自分の生業を決める大切な時間。その4年間という時間をどうすごすのかにより、将来は決まってくるのでは、大学に入る前にちゃんと自分の将来を考えたい、そう考えたそうです。
オーストラリアから帰国後、今の自分は将来何をしたいのかも明らかでない、世の中にはどんな仕事があるのかも知らない。そんな中でやみくもに進学しても、自分がやりたい仕事には就けずきっと将来に満足できないのではないかと思うようになりました。
特に、島で生活をしているとあまりお金も使わない。なんのために、働くのか。お金を稼ぐのは何のためなのか知りたい。仕事と休日を分けるような働き方はどうなのか。自分は好きなことの延長に仕事があればそれが理想と思うようになったそうです。
かれんさんのこうしたお話を聞くうちに、「働くこと」への強い意志をこんなにも持っていることに正直驚きました。私が、高校生の頃なんてそもそも将来働くかどうかなんてあまり真剣に考えていなかったし、大学はみんながいくから当たり前としか、考えいてませんでしたから。
かれんさんは、「自己流ギャップイヤー」と称して、知人の紹介を得てハンドスタンプアートプロジェクトに参加することしました。しかも、活動に必要な資金(約300万円)は、クラウドファンディングで自分の力で募集しました。
自分のやりたいことを実現しようとする強い意志が、かれんさんにはあると思います。だからこそ、世界一周というすごいことを成し遂げられたのだと思います。
世界を回ってみてどうだったか
2017年に始まった世界のハンドスタンプを集める旅。12か月間続けてきた旅も残り2か月。将来について何か見えてきたことがあるかという問いに、かれんさんは、正直わからないと明るく笑いながら答えました。旅に出る前、プロジェクトが終わるころには何かが見えていると期待していたが、余計わからなくなったところもあると言います。将来何をしてよいのか。
ただ、世界をまわって気が付いたことは「その人が幸せならばどんな生き方でもよい」ということ。そう思わせたのには、あるアメリカでの出来事がきっかけになりました。
アメリカのある障がいアートクラスに参加したときに、医師が「障がい者の存在価値は何か」という問いをしたそうです。かれんさんは、とっさに答えられなかったのですが、医師は続けます。
「あなたにも存在理由があるように、全ての人には存在理由がある。それぞれの生き方がある。」
それまでかれんさんは、「こうあるべき」という一つの基準をもっていました。しかし、世界を回るうちにいろんな人がいて、自分の基準だけでは当てはまらないことも多いことを経験。医師の言葉を受けて、ますます「(その人が幸せならば)なんでもいい」という思いが強くなっていったそうです。
世界のハンドスタンプ収集を終えて、具体的に何をしていきたいかはわからないと言いながらも、話を進めていくと「未来の大人つくり」「自分がやってきたことを仕事にしたい」「世界に興味を持つきっかけつくり」などキーワードが。かれんさんが「やりたい」ことの方向性は、ぼんやりシルエットが心の中にはできつつあるのではと思いました。
現在、かれんさんのギャップイヤーの旅はひとまずお休み。ハンドスタンプアートプロジェクトに参加されるだけでも素晴らしいことなのに、海外に出て、一人で周囲との関係を気づき、ハンドスタンプを集めることができるなんて。そのコミュニケーション能力にも驚かされました。
本当に、すごい10代です。
こんなすごい10代に自分の娘もなってほしいと思いながらも、そのためにはやはり「どこで何をするか」その環境や親のマインド(精神状態)が非常に重要なのでは、と改めて感じました。
こうした素晴らしい若い世代がいて頑張っていることは、本当に励みになりますね。
そして、私たちの子どもたちも、かれんさんのように、将来を生きる存在。
主体的に自分の未来を切り開いていけるよう、私たち親ができることはたくさんあることを、かれんさんのお話から教えてもらいました。
かれんさん、ありがとうございました。これからも、応援しています。
もし、かれんさんが母島で何かそういう子どもと海外をつなぐような取り組みをされるのであれば、まっさきに自分の娘を送りこもうと思いました。(他力本願www)
※このインタビューは2018年5月に行われました。
Interview Karen Miyazawa
Cooporated by Yuko Sin
Reported by Aiko Mochizuki