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新型コロナウイルス感染拡大中のメンタルヘルス対策(3) – 産業医 毛利由佳先生に聞く

緊急企画、シンガポールのはたママ医師に聞く、「コロナ」からくるメンタルダウン対処法第三弾。

今回アドバイス頂いたのは、企業と従業員の心身のサポートや組織コンサルティングを行う会社、ELLIXIA SG PTE. LTD. Director の毛利 由佳さんです。

現在シンガポールではエッセンシャル領域の仕事を除き、すべての企業が在宅勤務を命じられていますが、このような状況下に在宅で働くことでのメンタル面への影響や対策などについて、アドバイス頂きました。

(毛利先生のキャリアについてお聞きしたインタビューもぜひご覧ください)

在宅勤務・自宅待機でのメンタルダウンに要注意

まず今回の新型コロナウィルスのような有事の際のメンタルケアということでお話しますね。

特に在宅勤務や自宅待機における従業員のメンタルの落ち込みに要注意!です。

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大の影響で、世界的に入国制限や自宅待機命令などの対策が取られ、それにより自宅勤務を余儀なくされたり、日本への帰国ができなくなった方が多いかと思われます。

自宅待機や隔離を求められると、人のメンタルは以下のような状態に陥ります。

  1. 不安や恐怖を感じやすくなる - 自分や家族が感染するのではないか、他人にうつしてしまうのではないか、食料品を手に入れられるのか、仕事はどうなってしまうのかといった恐れや不安が生じます。根拠のない噂に振り回され、恐怖や不安が増大するリスクもあります。
  2. 怒りや苛立ちを持ちやすくなる - このような状況になったこと、感染を広げたこと、このような政策をとった人などに憤りも感じたりします。
  3. ストレス耐性が低下しやすくなる ー 自宅待機や在宅勤務が長くなると、生活リズムが崩れ、ストレスの影響を受けやすい心身コンディションになります。

更に、在宅勤務においては仕事上でのコミュニケーションがとりづらかったり、在宅で出来ることが限られていたり、休校中の子供を見ながらの勤務であったりすることにより、効率が下がりストレスを感じる方も少なくありません。

これらが重なることで『メンタルダウン』発生/悪化のリスクはかなり上昇します。

日本への一時帰国という手段が取りづらい現状を考えると、これまで以上に、メンタルダウンを起こすリスクを可能な限り下げておきたいところです。

覚えておきたい対処法

対策として考えられるのは大きく分けて2つ。セルフケア及び会社からサポート提供です。

セルフケア(ご自身で出来る対処法)については、以下のような方法が挙げられます。

  1. 情報は必ず信頼できるソースから入手するようにして下さい。WHOや、シンガポールならMOHやMOM、日本大使館、JCCIなど、日本なら厚生労働省などです。SNSやメディアなどからの情報を鵜呑みにすることは大変危険です。
  2. 在宅勤務、自宅待機であっても、日常生活のリズムは崩さないように意識して下さい。自宅にずっと籠っていると、生活リズムが乱れやすくなりますが、生活リズムの乱れがストレス耐性の低下を引き起こします。規則正しい生活を“意識して”心がけてください。特に食事と睡眠はしっかり取りましょう。大まかなタイムスケジュールを作るのも有効です。ストレッチやヨガなど自宅でも出来る運動を取り入れることも有効です。

また、仕事とプライベートのon-offの切り替えがうまくいかずにストレスを貯めこむリスクもあります。自身で切り替えられるルーティンを作るのも有効です。例えば、終業時に近所をちょっと散歩するとか、自宅内での仕事場所を決めて終業後はそこから離れるなどですね。

  1. 電話やメール、SNSなどを使って、他者との繋がりを保つようにしましょう。信頼できる友人や家族、同じような状況に置かれている人たちと情報共有したり気持ちを共有することで、孤独や不安感を減らすことが出来ます。オンラインレッスンなどもうまく取り入れるといいかもしれませんね。

 

会社からのサポート提供については、不調の度合いや原因に応じた対応が必要となり、メンタルヘルスの高度な知識を要するだけでなく、アプローチを間違えると悪化させてしまうリスクもあることから、自前で行うのはとても難しく、プロによるサポートを導入いただくことをお勧めします。

メンタルダウンの基礎知識

次に有事の際も含めて、一般的なメンタルダウンについてです。

いきなりうつ状態になるの?
では、メンタルダウンはいきなり現れるのでしょうか。
いえ、メンタルダウンは段階を経て落ちていきます。

まずは、なんとなく調子が悪い、精神的余裕がなくなるなどの誰にでも起こる初期。

この状態からさらに悪化すると、頭痛や胃痛、原因不明の体調不良、寝付けない、睡眠が持続しないなど、体に影響がでる心身症の症状が出てきます。

さらに悪化すると、家から出られなくて会社に行けなくなる、死んでしまいたくなるなど、
誰が見ても明らかにおかしくなる行動変調へと進んでいきます。行動変調まで行くと休職は免れません。その前にできるだけ早く見つけて、早く対処することが必要です。

早期発見
では、どうしたらメンタルダウンに早めに気付けるでしょうか。
もちろん、日本のように定期的にストレスチェックや産業医面談があることが理想ですが、近くに産業医がいない状況であれば、管理職や同僚が変化に気が付くことが重要となります。

メンタルダウンの悪化段階の分岐点は「睡眠の質に悪化が見られ、自分で改善ができない状態であるかどうか」です。不眠が続き、自力での改善が難しい場合には投薬治療など、プロの介入が必要となります。そのため、現場でメンタルダウンを疑う従業員がいる場合には「最近ちゃんと寝られてる?」と声掛けをし、睡眠の質に悪化が見られるかどうかを確認してみてください。

アルコール依存症
メンタルダウンの他、海外ではアルコール依存症に陥るリスクも上がります。
日々のストレスのはけ口をアルコールに求めているうちに量がどんどん増えていき、
やがてアルコールがなくてはならなくなり、仕事や生活に支障をきたしてしまいます。

また、アルコールは睡眠の質も下げるので危険です。ストレスを感じた時こそ、アルコールは避けて、意識して良い睡眠をとれるように心がけてください。

精神疾患
また、海外生活のストレスが引き金になって、統合失調症や双極性障害などの、特殊な治療を要する「精神疾患」を発症することがあります。一見、通常のメンタルダウンと見分けがつきにくいこともありますので、悩まれている場合はお気軽にご相談いただけたらと思います。

早期対応
赴任者自身が知識を持ち、同僚や家族などのメンタルの異変に早めに気付けるようにしましょう。また、メンタル不調に気が付いたら、自分で無理に解決しようとせずに、早急に相談してください。

参考URL

役立つWebサイト

企業・一般向け

お子様がいる家庭向け

Profile
毛利 由佳 (もうり ゆか)
ELIXIA SG PTE.LTD. Director, 産業医(日本)

来星暦7年。外科医を経て予防医学の重要性に気付き、産業医に。配偶者のシンガポール赴任に帯同。シンガポールにて2018年12月、企業と従業員の心身のサポートや組織コンサルティングを行う会社、ELLIXIA SG PTE.LTD.を設立。

Reported by : Yuka Mori
Cooperated by Mayumi Okazaki

 

 

 

 

 

 

 

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