インタビュー

<特別企画>ー専門家に聞くメンタルヘルス対策ー Part 3 臨床心理士 原田舞香先生に聞く

はたママ特別企画「専門家に聞くメンタルヘルス対策」では、3人の先生にお話を伺いました。
最後となります3人目の専門家は、現在シンガポール日本人会クリニックにて、臨床心理士として勤務されている原田舞香さんです。2児のママさんでもいらっしゃいます。原田さんご自身も中国・北京市で「駐妻(駐在妻)」を経験されており、今回は「駐在員家族目線」のメンタルヘルス対策について話を伺いました。

まず初めに、臨床心理士になられたきっかけを教えてください。

私は大学で心理学専攻だったのですが、卒業後社会に出てみたら、会社ではセクハラ・パワハラは当たり前、うつ病の人も理解されていない状況でした。そういう時代だったともいえるかと思いますが、企業も個人も心の健康に無関心な状況を目の当たりにし、「働く人の心のケア(メンタルヘルス)に関わる仕事をしたい」と考えるようになりました。そして、働きながら受験勉強をして、大学院で修士号を取得し臨床心理士になりました。
また、私は20代後半に病気を患い、左目の視力を失ってしまったのですが、この時「今後自分の健康がどれだけ保たれるのかも分からないし、人生を後悔したくない」と思ったのも、臨床心理士になろうという気持ちを後押ししました。

まさに今回、原田さんのご専門である「メンタルヘルス」がテーマなのですが、駐妻や駐在員家族が陥りやすいメンタルダウンのシチュエーションはありますか?

メンタルダウンしやすいシチュエーションは、夫婦関係、お子様関係、ママ友関係など色々とありますが、駐在員家族の場合、帯同するために、奥さんが仕事を辞めなければならずアイデンティティを喪失する、旦那さんが仕事で忙しく育児はワンオペになる、また旦那さんの育児に対する理解が足りない、などの状況が夫婦間に衝突をもたらし、駐妻をメンタルダウンさせてしまうことが多いように思います。

特に今までバリバリキャリアで働いてきたママは、自分のキャリアに対する拘りが強いために、駐在に帯同し、自分が希望するような仕事ができなくなることで、「ポキッ」と心が折れ、メンタルダウンに陥りやすい傾向があります。

さらに小さいお子さんがいるママは、今まで日本では保育園に預けられていたのが、日中お子さんとずっと一緒にいなければいけない状況になり、それに対して「どう過ごしていいか分からない」「ママ友がなかなか作れない」と悩まれることも少なくありません。家にいる時間が多いと、社会と繋がっていないことで閉塞感を感じてしまい、余計に不安になってしまいがちです。

シンガポールも含め海外では、日本のように気軽に育児相談をしたり、児童館で同じ年頃の子どもを遊ばせたりすることができません。そのため、実はお子さんに発達の問題がある場合でも、その問題に気付く機会が少なく、自分の子どもが育てにくいと感じると「私の育て方に問題があるんだ」と深刻に考え自分を責めてしまい、メンタルヘルスに問題を抱えてしまう傾向もあります。

ママ友の問題については、正直、日本にいても海外にいても関係なく起こる問題ですが、海外の場合、日本人が多いコンドに住むと特に問題が起こりやすいのではないか、と考え、あえて日本人が少ないところに住むという方がいらっしゃいます。しかしながら、日本人が少ないは少ないで、困ったときに助けてくれる人がおらず、逆に孤独が募って精神的に不安定になるケースもあるので、この問題は非常に難しいですね。

その他、個人差はありますが、語学の問題もあります。現地の言葉が話せず、自分のペースでなかなか動けない、それがストレスになってメンタルダウンしてしまうこともありうると思います。

どのような状態になったら専門家に相談すべきなのでしょうか。

もともとの性格として、特に人見知りや神経質な方は、環境の変化が大きいと適応しづらいという傾向がありますが、それで「うつ病」(大うつ病性障害)になるかというと、始めはそこまではいきません。軽い症状ですと専門用語で「適応障害」または「抑うつ状態」と言い、不安や憂鬱、元気がなくなるといった状態になります。
しかし、その状態が何ヶ月も続くと「うつ病」になってしまい、睡眠が十分にとれなくなる睡眠障害の症状が出たり、「私はこんなところで何をしているのだろう」「生きている意味がない」など後ろ向きな気持ちが強くなり、非常に危険な方向に向かってしまう場合があるので、このような状態になってしまったら、医療機関にかかったり、誰かに相談するなどの行動が必要になってきます。

駐妻というと「駐妻らしくあるべき」という固定観念に捉われて、普段より背伸びして過ごすことでストレスを感じてしまうイメージがありますが、実際はどうなんでしょうか?

そうですね。単に「駐妻環境が自分に合わない」などのシンプルな理由で悩んでいる人ももちろんいらっしゃいますが、この10年くらいで女性の生き方自体が多様化してきているので、夫婦関係や育児、キャリアのことなど、悩みの内容も多様化してきていると感じます。

「駐妻らしくあるべき」という意識は、もしかしたら世代によって差があるかもしれません。昔は駐妻というと、ある程度のステータスがあり会社からの補助も多くあったと思うので、50代、60代の方はそのイメージが強いと思いますが、今の若い世代は、そこまで優遇されているとも限らないので、「駐妻」への意識は世代間で意識のギャップがありますね。

誰かに相談したくても、その一歩が踏み出せない方も多いと思いますが、そのような方に対して何かアドバイスがあればお願いします。

駐在して間もないと、相談できる友達がいらっしゃらない方も多いと思います。最近では、メール相談だけでなく、日本人の専門家とオンラインで相談できる方法もありますので、一人で思い詰めるのではなく、とにかく誰かに相談して一緒に次のステップを考えていくことが大切です。

またお友達がいらっしゃっても、内容的に相談しづらい場合は、相談内容の秘密を守りながら責任を持って話を聞いてくださる専門家へ相談をするのが安心だと思います。

そういう意味では、シンガポールは、私のような臨床心理士や、シンガポールで資格を取得し開業されている方も多く、Face to Faceで相談できる環境が整っている国の一つです。国によっては、日本人の専門家がいないところもあるので、その場合は、オンラインで情報を収集したり、先程言ったオンライン相談などを利用していただき、メンタルヘルスを保っていただければと思います。

駐在員家族の子どもたちはどうでしょうか?子どもたちがメンタルダウンした場合、何か言動に変化はありますか?

親から見て、子どもが今までと違う行動を起こしたら、それは要注意のサインです。例えば、「穏やかな性格だった子が、感情の起伏が激しくなり、泣いたり怒ったりしやすくなった」「食欲がなくなった」「やたら甘えてくる」などが挙げられます。お子さんの年齢にもよりますが「学校で友達とトラブルを起こすようになった」などもあります。

子どもの場合は「うつ病」かどうかの判断は慎重にする必要があります。高学年になるほど、複雑な友人関係が影響し、学校に行けなくなってしまうこともあるので注意が必要です。

ただ、このような「子どもの変化」に気付くためには、お母さんが心に余裕を持ってお子さんと接する必要があるので、落ち着いてお子さんと向き合ってほしいと思います。

お子さんがそのような状況になってしまった場合、親としてどのように接すれば良いでしょうか?

できれば、子どもに無理をさせないことが大切です。習い事なども無理して行かせないで、お家で「ホッ」と出来る環境を提供してあげてください。あとは、お母さんと一緒に過ごせる時間を作ってあげることも重要です。「はたママ」の読者は働いていて忙しいママさんも多いと思いますが、「夜一緒にお風呂に入る」「寝る前に本を読んであげる」など、短い時間でもよいので少しでもお子さんとの「密度の濃い時間」を持っていただきたいと思います。この時間で、お子さんがママの愛情をたっぷりと感じることがすごく大事なことです。

シンガポールでは、メイドさんを雇っているご家庭も多いと思うので、メイドさんをフル活用してお子さんとの時間を作ってもらえたらと思います。

親だからといってパーフェクトになる必要はありません。手を抜けるところは抜いて、自分自身、心に余裕を持ちながらお子さんと接してあげてください。

次に、旦那さんがうつ病になってしまった場合、妻としてはどういう対応をすれば良いか伺えますか?

深刻なうつ病になってしまった場合は、奥さんだけで対応するのではなく、専門家を頼っていただければと思います。旦那さんがうつ病になってしまった場合は、奥さんもその対応で困っているケースが多いので、個別に奥さんにもお話を伺っています。そして旦那さんの普段の様子や、どんなことに困っているかを聞いて、奥さんも一緒に旦那さんの治療を応援できるよう心の準備をしていただくようにしています。私の場合は、旦那さんと奥さん、それぞれにカウンセラーをつけて心のサポートをさせていただく場合もあります。

また、旦那さんの海外駐在の場合、旦那さんへの企業からのサポートは手厚くても、奥さんに対してはサポートが手薄なこともあるため、旦那さんの変化に巻き込まれて奥さんもうつ病になってしまうことも考えられます。そうなってしまう前に、不安を感じたらできるだけ早めに専門家へご相談いただければと思います。

最後にはたママ読者へのメッセージをお願いいたします。

まずは、周りの人と自分を比較して「あの人ができているのだから自分もできるはず」と思って無理はしないでください。個人によって、持つエネルギーもキャパシティは全く違いますので、自分は自分のままでOKと自分を認め、自分らしい毎日を過ごしてください。また、家事、育児、仕事を1人で抱え込まないで、手抜きできることはするという意識を持っていただければと思います。
ママが笑顔でいられることが家族全員の健康につながりますので、ママの皆さん、ぜひ自分を一番大切にしてください!

Profile
原田 舞香 (はらだ まいか)
在星歴2年。臨床心理士・公認心理師。シンガポール日本人会クリニック勤務(非常勤)「駐在妻ライフキャリア研究所」運営 。専門は海外在住日本人のメンタルヘルス対策、女性のライフキャリア支援、勤労者のメンタルへルス対策。
家族構成:夫、子ども2人

Interview and Written by Tomoko Okawa
Edited by Nao Fujita
Cooperated and Photo by Aiko Mochizuki

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